阿佐美***歳三と阿佐美の恋***/ねこ(江戸)さん

○試衛館 表(昼)

   男が入ってゆく




○試衛館 玄関(昼)

男 「ごめんなさいよ」
   奥から、沖田「はーい」と答えながら出てくる。
沖田「何でしょう」
男 「こちらに土方っていうお人はおいでですか」
   沖田、背後をチラッと見る
   柱の影から、土方が手でバツを作って示す
沖田「居ることは、居るんですが・・・」
   土方、声にならない声でバカとか言っている
男 「浅草で居酒屋をやってるものですが、昨夜のお代をいただこ
   うかと・・・」
沖田「あ〜貴方掛け取りにいらしたんですね。ちょっと待って下さ
   い、今見てきます。」
   と、奥へ入っていく。




○奥の部屋 (昼)

土方「バカ!居ないって言え!」
沖田「だって居るじゃないですか此処に、私は嘘つくのいやだな」
沖田「土方さん、おあし無かったんですか?」
土方「ちがう。昨日店で喧嘩しちまって払わねぇできちまっただ
   けさ」
沖田「じゃあ払ってあげればいいのに、そんな大それた額じゃ無
   いんでしょうに」
  土方「こないだ原田と吉原に行ったら金使っちまってよ」
沖田「仕方ないですね、特別に貸してあげますよ。但ししっかり
   返していただきますからね」
   沖田立ち上がり、自室へ消える。
   そこへ、原田が顔を出し
原田「土方さん、吉原のレコが合いたがってましたぜ」
   と小指を立てて笑う
土方「おめえまた行ったのか、よく金あるなぁ」
原田「金は天下の回り物ってね、そういう金はどうにかなるもん
   ですよ、アハハハ・・・」




○試衛館 玄関 (昼)

   男に金を渡している沖田
沖田「貴方よくここが解りましたね」
男 「ええ、俺は試衛館の土方だ!と叫んでおられましたから」
沖田「土方さん、墓穴掘ってたってわけか・・・」
男 「ありがとうござんす、へ、では、あっしはこれで」
   沖田、男を見送りながら
沖田「一番貧乏籤引いたのは、私か?」




○吉原 大門 (夜)

  人で賑わっている通り
  原田、土方、沖田が歩いて来る
沖田「す・すごい夜なのにこんなに灯りが付いていてまるで昼の
   ようですね」
原田「総司はナカは始めてかい?」
土方「フン、今日が筆おろしだとよ」
原田「本当か!おまえ奥手だねぇ」
沖田「失礼な、人の事はほっといて下さい、それより貸した金を
   現物で返すってこのことなんですか?私は別に女の人とど
   うしたいなんて思ってないのに・・・」
   と、突然原田が沖田の股間を触り
原田「総司、おまえの息子は正直者だぜ、ガハハハ・・・」
   沖田、原田の胸ぐらを掴むが、土方が割って入り
土方「まあまあ、その元気は他の事に取っておくこった」




○一件の見世の前

   格子の中に遊女達がいる
   吸い付けの煙管を突きだし
遊女「おニイさん、遊んでいっておくれよ〜」
   沖田、目をまんまるにして見ている
   原田、見世の中へ入って行く




○見世の中

原田「小梅は、居るかい、それにこの沖田には誰か可愛い女を頼む
   ぜ、土方さんはいつものレコで」
遣手婆「そちらさんの相方は」と土方を指さし
遣手婆「昨日身請けされちまったよ。他の子選んどくれよ」
原田「なに、身請け?やっぱ男は顔より金かよ、なぁ土方さんよ」
   ジリジリと後ずさりをする沖田
   その襟首を掴む土方
土方「総司逃げるな。観念しろ」
遣手婆「そちらのお若いお兄さん、ちょうど良い娘がいるよ、まだ
   此処へ来て一月と経たないんだけどね、上物だよ」
   遣手婆、手を打って
遣手婆「香乃ちゃんお客さんだよ」
   奥から、小梅と香乃が出てくる
   原田、小梅と連れだって二階へ上がる
   香乃、沖田の腕をとり
香乃「さあ、はよ行きまひょ」
   沖田、引きつった顔で
沖田「土方さん助けて〜」
土方「総司かわいがってもらえよ」
   香乃に引きずられて行く沖田
   土方、格子の中の遊女を見回す

遣手婆「兄さんどの娘にします」
   遊女達の顔を見て行く土方
   一番隅に居る女に視線を向ける
   煙管をくわえておもしろく
   なさそうにしている遊女がいる
土方「あの、いっち隅にいる女がいいな」
遣手婆「へえ、兄さんもの好きだね、
   あの子ちょっと変わってるよ」
土方「俺は、変わってる女が好きさ」
遣手婆「阿佐美ちゃんお客さんだよ」
   阿佐美、機嫌悪い顔でやって来る
遣手婆「お茶引かなくてよかったね」
   と阿佐美に皮肉を言う
  阿佐美「お客さん、行くよ」
   と先に二階へ上がってゆく阿佐美、
   後に続く土方

遣手婆「顔は、かわいいんだけどね、あの性格がねぇ」
   ため息を付く





○阿佐美の部屋 (夜)

   阿佐美と土方が入ってくる
阿佐美「お客さん、酒飲むかい」
土方「一本もらおうか」
   阿佐美、酒を頼みに廊下に出ていく
   部屋には布団が敷かれ行灯の明かりがなまめかしい
   と、そこへ隣の部屋から「うわ〜」っと言う沖田の声
土方「ふん、総司が隣か」
   阿佐美が銚子と杯を盆に乗せ入ってくる
阿佐美「お待ちど」
   阿佐美、土方の隣に座り酌をする
土方「お前も飲むか」
   阿佐美黙って杯を受け取り土方の酌で飲む
土方「良い飲みっぷりだ、深川の滝山みていだぜ」
阿佐美「滝山よりわっちの方が強えーよ」
土方「そいつぁ大変だ、お足がたりねえや、それよりおめぇ
   新入りだよな」
阿佐美「せんだって入ったんだよ、元は辰巳の芸者さ」
土方「なんだって吉原に」
   阿佐美、土方をキッと見つめ
阿佐美「好きで此処に来る女は一人もいないよ、その訳をいち
   いちお客に話してらんないよ」
   煙管で煙草を吸う阿佐美
   その煙管を取り上げ吸う土方
土方「おめぇの事気に入ったよ」
阿佐美「おや、そりゃーありがたいねぇお馴染みさんになって
    おくれなのかぇ」
土方「金が続きゃあな」
   と、そこへ隣の部屋の声が
香乃声「あ、コラ、逃げたらあかん!」
沖田声「土方さ〜ん」
   大笑いする阿佐美
阿佐美「兄さん呼ばれてますよ、そっちの趣味がおありかい」
土方「冗談じゃねぇ俺は男は嫌ぇだよ」
   土方、隣の部屋に向かって
土方「総司、騒ぐんじゃねぇ、おとなしく女の言いなりにな
   ってろ」
   隣より
沖田声「香乃さん、お手柔らかにお願いします」
阿佐美「お兄さん何て呼んだらいい?」
土方「俺は歳三ってんだ、小石川の試衛館て道場にいる」
阿佐美「ヤットウをおやりかぇ、そういゃ良い腕してるね」
   阿佐美、土方のうでにもたれかかる
   土方、阿佐美を引き寄せ、襟元を開く
   阿佐美の首筋に唇を当てる土方
   と、廊下で物音が




○廊下 (夜)

   抜き身を下げた酔っぱらいがわめいている
   阿佐美、部屋から顔を出し
阿佐美「何やってんだよこのスットコドッコイ!デバガメかい」
酔男「なにぃ〜女郎の分際で」
阿佐美「男が怖くて女郎なんてやってられるかよ」
   部屋を飛び出してくる、
   土方、原田、沖田
   原田と沖田は下帯一つの姿
   各部屋からも、客が覗いている
   男の鳩尾に拳をくらわせ、
    床に叩きのめす土方
   男の刀を奪い取り、男に突きつける沖田
   男を、押さえ込む原田
   三人見事な連携プレーで
   そこへ吉原の役人が来て、男を引き渡す。
原田「さあ、もう一発やるか〜」
   と、部屋に入って行く
   香乃、部屋から顔だけ出し
香乃「いや〜かっこええわ、沖田はん」
沖田「ハハハそうですか」とまんざらでもなく
香乃「はよ、続きしまひょ」
沖田、部屋へ消える




○阿佐美の部屋 (夜)

阿佐美「とんだ邪魔が入っちまったね」
   酒をあおる阿佐美
土方「俺にもくれ」
   と杯を出す
阿佐美「沖田さんはヤットウは強いけど香乃ちゃんには
    弱そうだね」
土方「あ〜まったくだ」
阿佐美「わっちが此処へどうして来たかさっき知りたが
    てたね」
土方「言いたくなきゃ言わなくていい」
阿佐美「わっちには、好いた人がいてね、腕の良い飾り
    職人だったんだよ、夫婦になろうと思った事も
    あったんだけどね・・・」
土方「・・・・」
阿佐美「これがさ、とんだくわせものさ、わっちの事を
    此処に売り飛ばしやがったのさ」
土方「・・・・」
阿佐美「そいつ方々に博打で借金こさえててね、どうに
    にもならなかったらしいよ。何にもしらなかっ
    たんだよわっちは・・・」

土方「そんで、そいつどうしたぃ」
阿佐美「わっち売った金じゃ足りなくて、
    また博打に手出して、
    せんだって大川に浮かんでたってさ 
    馬鹿な男に惚れちまったもんさ・・・」

土方「俺は、馬鹿な女が好きさ」
   土方の腕が阿佐美を抱きしめる
   襦袢の裾から土方の手が阿佐美の
   臀部を撫でる
土方「冷たい・・・」
阿佐美「尻が熱かったら、病さねぇ」
土方「ふふ・・その減らず口黙らせてやる」
   土方の手が奥に伸び・・・
阿佐美「・・・う・・・」
   耐えている阿佐美の顔
土方「もっと素直になれ」
   土方、阿佐美の唇を吸う
   陶酔の阿佐美の表情




○阿佐美の寝間 (夜)

   床の中の二人
   土方が阿佐美の上にいる
   土方、阿佐美の襦袢をはだけ、かいなを抜く
   阿佐美の胸に口づける土方
土方「阿佐美を捨てた野郎が信じられないぜ・・・」
阿佐美「・・・あぁ・・・」
   行灯のシルエットで結ばれる二人




○吉原大門 実景 (朝)

   朝靄の中鳥の鳴き声




○見世 玄関 (朝)

   小梅、香乃、阿佐美が床に跪いている
   原田、沖田、土方が立っている
原田「ほんじゃ又来るよ〜」
小梅「待ってるわよ〜佐之ちゃん」
香乃「沖田はん、また来てや〜」
沖田「あーいやーえー・・はい・・」
原田「なに照れてるんだよコノヤロー」
   と、沖田の頭を叩く
   阿佐美、土方に刀を渡しながら
阿佐美「あばよ」
土方「ああ」
   回れ右をして玄関を出る3人




○吉原 通り (朝)

   横一列に並び歩く三人
原田「総司、首尾はどうだったんだよ」
   沖田真っ赤になり
沖田「べ、別にどうでも・・・」
原田「これで、総司も一人前か、源さんに頼んで赤飯でも炊いて
   もらわなきゃな、」
沖田「原田さん、誰にも言わないでくださいよ、井上さんにも 
原田「バーカ。一晩泊まったんだぜもうバレバレだよ、今頃赤飯
   出来てるんじゃないか〜」
   じゃれながら歩く二人
   そんな二人を横目で見てニヤリと笑う土方
土方の声「さて日野へ、無心にでも行くか、阿佐美と会う為に・・」