記念写真 /nekoさん
 
選択肢・・・・・B  写真を撮る。

「老豆・・・・貴様という奴は・・・」
副長土方歳三の端正な顔が怒りに染まっている。唇を振るわせ、眉をつり上げている。
 土方が手にしていたものは、近頃人気作家となった浮世絵師老豆の描いた一枚の浮き世絵だった。あろうことか、老豆は、泣く子も黙る新撰組副長土方歳三のあられもない姿を浮世絵に現していたのだ。幸いというべきか、有能な監察山崎烝が、まだ版元に下ろしていない原画を差し押さえたのである。これが、世間に広まる前に未然に防げたことは、なによりだが、土方の気は収まらない。
「老豆の奴・・・どうしてくれよう・・・」
 
 怒り狂っている土方は、その時、背後に近寄ってきた悪戯小僧の存在に全く気付いていない。
 そっと足音を忍ばせて、やってきた悪戯小僧は、バニーちゃんの耳を土方の頭に取り付けたのである。その作業が上手く終わると、片目をつぶって見せた。さっきから、僅かに開いていた襖の間から、奇妙なものが覗いたのも、それが、ぴかっと一瞬閃光を放ったのも土方は気がつかない。気付くゆとりもないほど、土方は怒っていたのである。


 バニーちゃんの耳に気が付かなかった土方のその後は、最近入隊した茶々之助の日記を参照あれ。



 それから、数日の後。
 3番隊組長の斉藤一は、そっと1番隊組長の沖田総司の自室を訪れた。
「やあ・・一さん。」
総司はにっこりと笑って、斉藤を迎えた。
「どうでした?上手くいきましたか?」
あの騒動の後、土方にこってり油を絞られたはずなのに、いっこうにへこんだ様子はない。全くタフな男である。
「どんなものかな?何しろ写真なんて初めて写したからね。」
斉藤は辺りをきょろきょろと見回してから、懐から大事そうに1枚の写真を取り出して、総司に渡した。
 そこには、バニーちゃんの耳をつけた土方がばっちりと写っている。どうして、どうして、斉藤の腕はたいしたものだった。
「わははは・・・」
と笑い出した総司の口をあわてて、押さえる。
「しっ!山崎君にでも見つかったらどうするんだ!」
「・・・・」
涙をためた目で頷くと、総司は、お腹を押さえて、口だけぱくぱくしながら笑っている。 しまいには、我慢できずに畳の上に転がって笑い転げている。
 浮世絵師老豆に土方の編みタイツを依頼したのは、案外総司ではないのかと斉藤は疑いたくなった。バニーちゃんの耳まで用意していたところも疑う材料である。
 ひとしきり笑ってから、総司は突然むっくりと起きあがった。
「あれ?一さんは、どうして笑わないの?」
「そんなもの・・・」
「ええっ。可笑しいな?ほら、よく見てご覧なさいよ。角のかわりにバニーちゃんの耳だよ。面白いでしょう。ほら、ほら」
斉藤は総司を無視して、
「それにしても、そんな写真、どうするんです?」
まじめな顔で聞き返す。
「これですか?」
総司の悪戯っぽい目がくるりと動いた。
「ふふふ・・・内緒」
「私にそれを撮らしておいて、それはないでしょう。」
「聞きたい?」
「撮影者として、聞いておかねばなりません!」
総司がこんな悪戯を黙っていられるはずはないのだ。話したくてうずうずしているに違いない。
案の定、総司の顔がぱあ〜っと明るくなった。
「ほら・・何かあったときに使うんですよ。『土方さん、あなたの弱みは私が握っているんですからね。』って具合に・・・」
「総さん・・・あんた、それね・・・」
「ちゃんと一さんにも使わせてあげますから。切り札なんですから・・」
総司は楽しそうである。こんなことを二人でやっていると、

「越後屋、おぬしも悪じゃなあ。」
「いえ、いえ、お代官さまほどでは・・・」
まるで悪徳商人と悪代官のような気分になる。



 そんなことを言ってた総司だが、その写真を切り札に使ったかどうかは、分からない。よほど大切にしてたのか、斉藤が手渡されたときには、シミ一つ付いていなかった。しかし、何度も見ていたのか、端のほうは少しすれ切れていた。


 時は移り、明治元年。
 それまで、共に戦っていた土方と斉藤は決別することを決めていた。北へ行くという土方に、斉藤は会津に残ることを告げた。
「副長・・・沖田君から預かっていたものがあるんです。形見の品です。」
別れの日、そう言って斉藤は土方に一枚の写真を渡した。
「記念写真ですよ。」
「総司の奴・・・・」
その写真を見たとき、土方は笑った。笑って、笑って・・・笑いながら泣いた。

 土方が総司の形見だと受け取った写真は、実は、総司から渡されたものではなかった。なぜなら、その写真には、土方にバニーちゃんの耳をつけている悪戯小僧が一緒に写っていたからである。
 
 だた、1枚きりの総司と土方の記念写真だった。


                   完


ローズさんに頂いた「おきらぶ黄金期キリ番・ 10001番で残念だったで賞」から始まり、「おしおきだべ〜」と続いた悪のりイラスト。某チャットで蒸し返した事から「ちゃちゃさんの書下し」を頂いた上、nekoさんからも頂いてしまいました。ぼたもち2つ目〜、海老で鯛が2匹もつれた(≧∇≦)

チャットで「あのバニーちゃんの耳の続きはどうなったんでしょう??」に答えて、私が出した(1)殴られた(2)気づかずにいってしまった(3)記念写真を撮ろうとしたの3択の内、nekoさんが書いてくださったのは(3)。斎藤さんまで巻き込んだ沖田さんの悪戯に笑いながら、最後にはほろっとさせるとは!
nekoさん、ありがとうございました。